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移民社会における多文化共生研究拠点

目的

 国外出身または異文化をルーツに持つ日本居住者の増加構造を分析し、移民社会としての東北(特に山形県と宮城県)が直面する諸課題を解明するために、分野横断型研究拠点を立ち上げます。

概要

○プロジェクトの概要
 日本はすでに移民大国です。在留外国人数は288万人、外国人労働者は172万人と前例のないレベルに達しています(2020年末現在)。外国人労働者の増加は少子高齢化の日本において構造的に不可避であり、一時的な現象ではありません。これまで外国人労働者の数が比較的少なかった東北でも全域で技能実習生等が急増しており、特定の産業には深い影響を与えています。例えば、東北の遠洋漁業はすでに外国人労働者抜きには持続不可能な状態であり、介護・ケア人材も外国人労働者抜きでは考えられない状況になりつつあります。この状況を踏まえ、今日、自治体・企業・コミュニティにおいて「共存」への知見が求められています。
 本企画では、人文社会系の多彩な研究者が、暮らし・人権・法制度・労働環境・言語教育など幅広い視点から情報と論点を整理するとともに、対象グループに関する質的及び数的調査を実施することでベースラインとなる一次データを収集・分析することで、「共存」への知見を提供できる分野横断型の研究拠点を確立すべく活動しています。現在は、定期的に研究会を催し、ここに多彩な学外講師を招くなどして、有効な研究の枠組みと研究方法を確立するための検討を行っているところです。また、学内のデータサイエンス教育研究推進センター(https://www.yamagata-univ-derp.org/)と連携して収集したデータを数理科学的に解析するなど、文理融合型の拠点形成を進めていきます。

○拠点による主催・共催イベント
○研究会の実施状況(2022年度)
※過去の活動については拠点のウェブサイトをご参照ください。

○研究会の紹介
・長津一史(東洋大学社会学部)「気仙沼とインドネシア―マグロをめぐる移動社会史の素描」(2021年度第6回研究会)
 宮城県気仙沼市はインドネシアとの関係がたいへん深い。同国の青年は、30年以上前から気仙沼を拠点とする遠洋・近海マグロ漁船等に乗り、市の基幹産業である漁業を支えてきた。現在、遠洋マグロ船の船員では、たとえば23人中19人がインドネシア人、4人が日本人と、乗員の3分の2以上をインドネシア人が占めている。東日本大震災以後は、水産加工業等で技能実習生として働くインドネシア人が増えた。2018年、技能実習生の人口は200人強になった。一時的に滞在する漁船員をあわせると、同市に滞在するインドネシア人の数は1000人をゆうに越える。人口約6万の同市で、インドネシア人の存在はきわだっている。
 気仙沼の人びとは、産業以外でも、インドネシアと独自の関係を紡いできた。2002年には、商工会議所が夏の港まつりの一環としてインドネシア・パレード(初期はバリ・パレード)を企画、2011年に震災で中止を余儀なくされたものの、翌年には再開され、2019年には第17回を数えた。パレードには多くのインドネシア人技能実習生が参加。またほぼ毎年、在京インドネシア大使が臨席する。こうした経緯があって、東日本大震災後の2011年6月には当時のインドネシア大統領ユドヨノが仮設住宅に住むパレード主催者を訪問。その後、インドネシア政府は復興資金として20万ドルを市に寄付した。市はこの予算を市立図書館の再建にあて、同館に「ユドヨノ友好こども館」を付設した。
 本トークでは、こうした気仙沼とインドネシアとの交流史、インドネシアの技能実習生と船員の就労状況や経歴をまず概観する。そのうえで、こうしたことを調べることで、何をどのように探ることができそうなのか、水産業(とくにマグロ)をめぐる移動の社会史という観点から展望してみたい。

・田村啓「現場からみる技能実習制度の課題と解決策としての新しい事業モデルの実践」(2021年度第9回研究会)
 理念的な矛盾から始まる多くの問題を抱える技能実習生制度ではあるものの、途上国の出稼ぎ・技術習得ニーズと、日本の少子高齢化に伴う労働力ニーズをマッチングすることで大きな社会的価値を生み出すことができる。一方で、法的(もしくは実務的)な抜け穴が多く、経済合理性だけが優先され、企業倫理が欠けたプレーヤー(企業、監理団体、人材会社、送出し機関、日本語学校など)が跋扈する実態がある。そのしわ寄せがバリューチェーンの中の最も弱い立場の実習生たちに集まり、結果として搾取的な構造が生まれている。このような市場環境で、責任ある企業として倫理観を保ちながら、事業モデルを革新することで、いかに実習生たちの負担を減らしながら事業として持続的な仕組みを作ろうとしたのか、という点に焦点を当てる。また、事業モデルの革新の派生として、現地ソーシャルスタートアップ(Linklusion)への出資を通じてのマイクロファイナンス業者との提携と、特別な融資商品の開発についても触れる。

・吹原豊(福岡女子大学)「インドネシア人コミュニティの成立と現況ー大洗コミュニティにおける事例―」(2021年度第10回研究会)
 茨城県東茨城郡大洗町(以下、大洗町)には、2021年11月1日の時点で16,154人が居住しており、そのうち414人がインドネシア人である。
 大洗町への外国人労働者の流入には時代による変遷が見られるが、インドネシア人の流入は1992年に始まり、現在では町内に在住する外国籍者の過半数を占めている。
 同町のインドネシア人コミュニティは特にキリスト教会を中心とするネットワークの中では歴史も古く、「大洗町は日本においての故郷である」との声さえも聞かれる。
 講演では主にインドネシア人移住労働者が同町に流入することになった経緯を当事者たちによる文章、語り、関与者の証言をもとに明らかにする。そして、その後の展開と現況について問題点にも言及しながら紹介することにする。

・Bavuah(バヴア)(戸澤典子(東京大学)・井川・アティアス・翔(イースタン・メノナイト大学))「「だれも知らないイスラエル」から究極の移民社会を見る」(2021年度第17回研究会)
 『だれも知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』は、グラフィック・ノベル制作ユニット・バヴアが編著したものです。
 イスラエルは1948年に建国した移民国家で、日本の四国ほどの大きさの国です。そこには、東西ヨーロッパ、旧ソ連諸国、北米・南米、中東・北アフリカ諸国、エチオピアやアジアからユダヤ人が移住するだけでなく、フィリピン・中国といったアジア諸国やエリトリア・スーダンからの移民・難民労働者も暮らしています。一方、イスラエル生まれ(サブラ)の人口も68%となり、サブラとディアスポラのユダヤ移民との関係、エスニシティ集団間や世代間の分断に加え、個人の宗教的志向、政治的志向が加わり、社会をクロスカットする複数のレイヤーが存在しています。さらに、イスラエルの教育システムが4つの集団に分けられていることも社会的な分断の一因のようです。イスラエルはパレスチナとの紛争を現在も抱える一方、このような多くの歪みも社会に抱えています。
 今回の発表では、「移民」という視点からイスラエル社会の実態をバヴアの作品制作を通してお話していきます。日本の移民状況とは異なるイスラエルですが、高齢化を迎える日本にとって移民は必要な存在であり、日本の先をいく移民社会イスラエルの考察を通して、社会の中で「他者」と位置付けられる人々を、理解できる「他者」としてどのように社会に包摂をしていくのかを バヴアの作品や制作を通して考えていただける機会となればと思います。

・設楽澄子「「北海道で出会ったベトナム人技能実習生:かれらの現在と未来」・湯山英子「北海道在留外国人調査から見えてきた課題:地域で何ができるのか」(2021年度第18回研究会)
 発表者2人は2018年から北海道において在留ベトナム人調査を行ってきた。本調査から見えてきた課題や地域における支援の実情、ネットワーク構築の経緯を報告する。
 設楽は、ベトナム人技能実習生のさまざまな事例を紹介し、彼らの生活実態を明らかにしながら、彼らの未来を地域でどのように支えられるか現時点で考察した結果を報告する。湯山は、札幌近郊や根室など各地での調査を総括し、調査で得られたデータをどのように共有し発信したのか、各地におけるネットワーク構築とともに実践事例を紹介する。

講演会「ウランバートルを囲む都市問題:住まいの歴史文化的解読を通じて」(拠点共催)の様子。

Zoomでの第6回研究会「気仙沼とインドネシア―マグロをめぐる移動社会史の素描」の様子。

関連サイト

https://yu-imin.labby.jp/

代表者、担当組織

小幡 圭祐

担当学部

人文社会科学部

連絡先

obata@human.kj.yamagata-u.ac.jp

関係者、共同実施者

【生田慶穂】【池田弘乃】【今泉智子(学士課程基盤教育機構)】【今村真央】【内海由美子(学士課程基盤教育機構)】【小幡圭祐】【源島穣】【中澤信幸】【中村文子】【中村篤志】【本多広樹】【丸山政己】【松本邦彦】【尤銘煌(学士課程基盤教育機構)】

このプロジェクトを支援

山形大学基金(学部等への支援)
※「学部等名」にプロジェクト名を入力願います。

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