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鬼越の森再生プロジェクト

目的

私たちが「鬼越の森」と呼ぶ山形市大字岩波・鬼越地区の森林には、かつて沢山の杉が植樹されたが、林業が衰退してからほとんど人々が近づかなくなった。樹齢60年越えの大きな杉は周辺住宅の日照を遮り、光が入らず暗く鬱蒼とした森は偏った生態系を作り出し、日中でも危険な野生動物が自由に徘徊している。
そこで私たちは、研究者・学生・地域住民・林業士からなる「鬼越の森再生プロジェクト(通称オニモリ)」を組織し、100年後の未来を見据えた長期的な視野のもと、この杉林を間伐・整備することで、これを明るく、生物多様性に富んだ自然林へと変貌させる活動を開始した。これによって冬の日照問題や、近年深刻化している獣害問題を解決するとともに、ヒトとそれ以外の種が調和した持続可能で豊かな里山暮らしの実現を目指す。伐採木は薪にして地域に無償配布し、木質資源の熱エネルギー活用を促進している。また、林業の衰退とともに使われなくなり、失われつつあった歴史的古道「鬼越古道」を生活道やトレッキングルートとして再生させ、維持していく。地域住民たちに日々の生活のなかで森を歩き現状を知ってもらうことで、森に対する関心を喚起し、里山再生の活動を継続・発展させるための原動力に繋げていく。

概要

申請者はコロナ禍において、蔵王連峰の瀧山(りゅうざん)の麓に位置する大字岩波・鬼越地区に土地を購入し、家を建てることになった。申請者の専門である人類学ではこれまで、研究者たちは身一つで、見知らぬ土地の見知らぬ社会のなかに飛び込み、そこで出会う人々とともに長く濃密な時間を過ごすことで、彼らを内側から理解しようとしてきた。申請者は鬼越地区を終の住処とし、新しい住民として溶け込もうとするなかで、まさにこの参与観察という方法論を実践してきた。そしてこれは、客観的な他者理解を志向するものではなく、「人新世と呼ばれる時代のなかで、他者と向き合い、ともに生きる」という現代人類学のもっとも新しい動向を踏まえた学問的な実験であり、アクターのひとりとして考察対象の社会に積極的に関与していこうとするものである。いわば、課題解決型の人類学であり、学問と生活をひとつの線で結ぶ取り組みである。
このように参与観察を実践していくなかで、鬼越地区が抱えるいくつもの課題が見えてきた。その多くはこの地区のみならず、広く日本社会全体が共有するものである。申請者がおもに注目しているのは、里山の荒廃が引き起こす問題である。林業の衰退によって人の手の入らなくなった森が土砂災害特別警戒区域に指定され、危険な野生動物の住処になっている現状である。そして、里山荒廃の背景には、超高齢化や働き方の変化、地域コミュニティの消失など、様々な問題が複雑に絡まり合っている。行政などに頼らない住民主導の住環境整備のためにはまず、世代を超えた人々のつながりを取り戻すことが必要である。コミュニティづくりの第一歩として、「令和4年度山形県みどり豊かな森林環境づくり推進事業」として鬼越の森再生プロジェクト(通称オニモリ)を発足し、問題解決に踏み出した。
当プロジェクトの活動の柱は以下の三本である:

【柱1】放置林の間伐による里山再生
杉は根を縦に伸ばし、広く根をはって地盤を支えることをしない。また、杉の葉は落葉樹の葉のように腐葉土となって雨水を保水できないため、降った雨はそのまま山を流れ落ち、川に注がれることになる。いま日本の各地で見られる土砂災害や河川氾濫には、このようなメカニズムで起きているものが多い。
鬼越の森にもこのような土砂災害の可能性があり、県によって特別警戒区域に指定されているにもかかわらず、そうした災害を未然に防ぐための取り組みはほとんど皆無である。30メートル近い樹高をもつ杉林は近隣住宅への日照を遮り、急傾斜に生えているため、土砂災害以前に倒壊の可能性さえある。鬱蒼として光も風も通らない過密な森林は、偏った生態系を作り出しているし、危険な野生動物の住処にもなっている。
当プロジェクトでは、この杉林を間伐することによって、落葉樹を含む自然林に変貌させることを目標としている。これにより、明るく安全な森林へと変貌させ、生物多様性に富んだ豊かな里山を復活させる。なお、申請者は令和4年度に銃猟・わな猟の資格および猟銃の所持許可を取得した。現在は地元猟友会(瀧山地区)による有害鳥獣駆除への参加を準備している。

【柱2】伐採木の暖房用エネルギー資源としての利用の促進
伐採木のほとんどは、薪にして地域住民に無償配布している。岩波周辺には薪ストーブユーザーが多く、まだ薪を風呂やカマドに使用している世帯も存在する。高齢者にとって薪づくりは難しく、購入するにしても経済的な負担が大きいため、無償配布によって、こうした負担の軽減を目指している。
このとき、伐採木を暖房用エネルギー資源として利用することに大きな意味がある。たとえば、伐採木から作られた木質チップが火力発電に使われることがあるが、これには二重に無駄がある。チップ製造には当然コストがかかるし、現在の発電技術ではチップ燃焼時に発生する熱エネルギーから電気エネルギーへの変換効率は50%にも満たない。熱エネルギーの半分は無駄に逃げてしまうのである。これはきわめて効率の悪い資源利用方法であると言わざるをえない。当プロジェクトでは、燃焼時の熱エネルギーはそのまま暖房として利用すべきであると考えている。

【柱3】鬼越古道の整備による地域住民の森への関心の喚起
当プロジェクトでは、100年後の未来を見据えた長期的な視野のもとで里山づくりを目指している。こうした活動を持続可能なものとするためには、地域住民たちの森への関心を継続的に喚起し続けなければならない。そのために最も重要なことは、常に森の現状を知ってもらうことである。そこで重要になるのが、三つめの柱である、森へ入るための道づくりである。
鬼越地区にはかつて「鬼越古道」と呼ばれる、平清水地区と岩波地区を結ぶ生活道が存在した。現在も一部は残っているが、人々が森に入らなくなったのを契機に急激に失われつつある。この道は(室町時代から遍路のコースとして多くの巡礼者を集め、観音信仰の流布に貢献してきた)最上三十三観音の第六番札所の平清水・耕龍寺と第七番札所の岩波・石行寺の間を連結するとともに、東北において広く知られた窯業地である平清水焼および岩波焼の窯場跡や、中世の城跡などの史跡を結ぶルートでもある。昭和の時代には子どもたちの遠足ルートとしても使われた。
この古道を復活させ、維持していくことで、地域住民たちに日々の生活のなかで森を歩いてもらい、すぐ身近にある住環境の現実を知ってもらう。これこそが里山再生の活動を継続・発展させるための原動力に繋がるのではないかと期待している。

プロジェクト発足前の鬼越の森(2021年7月16日撮影)。鬱蒼とした、とても暗い森です。熊や猪のような野生動物が自由に徘徊しています。周囲の住宅には樹齢60年、樹高30メートルの大きな杉が影を落とし、陽が傾く冬はほとんど日光が当たりません。

プロジェクトの活動は今年で2年目です。写真は2023年6月の薪づくり活動の参加者。最近は常に30名近いメンバーが参加してくれるようになりました。年齢や性別、国籍を越えて、毎回とても楽しく活動しています。

関連サイト

鬼越の森再生プロジェクト(オニモリ)のホームページ

代表者、担当組織

松本剛・鬼越の森再生プロジェクト

担当学部

人文社会科学部

連絡先

gocito@human.kj.yamagata-u.ac.jp

関係者、共同実施者

【中澤 未美子】【今村 真央】【川邉 孝幸】

その他・備考等

とくになし

このプロジェクトを支援

山形大学基金(学部等への支援)
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